Fahrenheit -華氏-

「いつから?」


何となく…聞いてみた。


綾子は前髪をくしゃりとかきあげると、苦しそうに笑った。


「一年ぐらい前だったかな?あたし当時付き合ってた彼と別れたばっかりで、そのとき桐島くんが色々相談に乗ってくれたり、慰めてくれたの。


今まで、あたしの周りはガツガツした感じの下心がある奴ばっかだったのに、桐島くんは違った。


純粋にあたしを慰めてくれて、応援してくれたのよ」


知らなかった……


綾子が誰かと付き合ってたこともだし、別れていたことも、もちろん。


こいつは何か男みたいで、そういう会話をしたことがなかったから。


別に知りたいとも思わなかったし。


「何で告らなかったんだよ」


俺は腕を組むとちょっと眉を下げた。


「今までの関係を崩したくなかったからよ。そりゃ部署も違うし階も違うから顔を合わせることなんてあまりないけど。


それでも同じ社内じゃない。気まずくなりたくなかったのよ」


気まずくなりたくない…か。


それは何となく分かる気がする。


と言っても俺のは綾子とは少し種類が違って、一度寝た女に彼女面されるのが嫌だったから。



「このままでいいのか?桐島結婚しちゃうよ?」


「結婚するから尚更無理でしょ!結婚すること前々から聞いてたのに、いざ招待状を受け取ったらショックで…」


綾子はとうとう涙を流して泣き出した。




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