Fahrenheit -華氏-
あれから二週間して、朗報が舞い込んできた。
「部長。TOYOエクスプレスの件ですが。我が社が落としました」
まるで一日の業務報告をするように、柏木さんがさらりと言った。
「え?」
「来月から本格的な取引きを行いたいと思っていますが…」
えぇ―――――!!!!
朗報どころじゃない。
爆弾だ。それもとてつもなくでかい。
俺の横で佐々木も目を丸めてあんぐりと口を開いている。
「……ま、マジで……?」
「はい。ですので、稟議書に目を通していただけませんか?」
そう言って柏木さんは俺のデスクの上にトンと書類を置いた。
い……いやいやいや…
待て待て待て。
だってあれは…世界中が狙っていた案件で。うちがいくら大手だと言っても世界に比べりゃまだまだ小規模な方で…
それをうちが落としただぁ!!?
利益計算すると……
「USドルでおおよそ2,500万ドル。日本円に換算すると約20億です」
クラッ。
桁違いの数字にいきなり視界が暗くなったみたいだ。
眩暈を起こしたように、くらりと視界が歪む。
バタン!!
派手な音がして横を見やると佐々木が床に引っくり返っていた。