Fahrenheit -華氏-
「……なかなかしつこいアメリカの企業があったのですが。寸でのところで私が入札したわけです」
「そ……そう?」
そう答えるしかできなかった。
「そのアメリカの企業って?」
何気なく聞いてみる。
柏木さんは一瞬いい辛そうに表情を歪めた。
あ……
この表情以前にも見たことある。
あんまり感情を表に出さない彼女が、唇を結んでいる。
「……や、言いたくないんなら」
「ニューヨーク州のヴァレンタイン財閥です」
柏木さんは俺の言葉に被せるように早口で言った。
ヴァレンタイン……って言やぁ、世界のトップレベルの財閥だ。
うちとは規模も資産も比べようもないぐらいの大きな財閥。
その名前が経済誌に載らない日はない、というあの有名な……
クラっ
またもや眩暈が……
佐々木じゃないけどぶっ倒れそうだ。
「す、凄いじゃん!!柏木さん!あんな大手に勝つなんてっ!!」
俺は勢い込んだ。
もうこうなりゃヤケだ。
もう事態は動き出している。今更ビビッていてもしょうがない!
だけど柏木さんは目を険しくさせて一言呟いた。
「絶対負けたくはなかったので」