Fahrenheit -華氏-
■Antagonism(確執)
あれから一週間、ある日の休日。
「啓人。お前、自分ちの書棚の整理くらい自分でやれ」
裕二が書斎で使っている本棚を覗き込みながら口を開いた。
「そうですよー。部長だったら手伝ってくれる女性いっぱいいるでしょうに…」
と足元で佐々木がいらなくなった新聞をまとめながら不服顔。
「や、だよ。女なんてうちに入れるか。俺のプライベートルームだ。それこそ彼女面して、通うようになったらどーすんだよ」
「ひっどーい。部長って女性の敵」
佐々木が俺を睨み上げて口を尖らす。
「何とでも言え。童貞佐々木クン」
俺はからかった。佐々木は顔を真っ赤にして本気で怒り出す。
「ま。分からんでもないがな」
と言いながら裕二が俺に加勢してくれたお陰でどうにかその場は治まったわけだけど。
―――今日は、裕二と佐々木二人を呼んで俺のマンションの書籍整理を頼んだわけだ。
部屋自体は散らかっていないけど、どうも書斎の本棚には経済誌や新聞なんかでごちゃごちゃしている。
整理をしようと思い立ったのは、ほんの気まぐれ。
経済誌だったら、ヴァレンタイン財閥のことが詳しく書かれているかも、と思って探そうと思ったのがきっかけだった。
そんな俺に付き合わされた裕二と佐々木は先ほどからぶつぶつ文句が絶えない。
「まぁそんな文句を言うなよ。昼に特上寿司奢ってやっから」
「……大トロ入ってますか?」
佐々木はちょっと怪しむように俺を見た。
「あ~入ってる。入ってる。何なら俺の大トロもやるから」
「…………それなら」
素直で可愛い佐々木。
それにくわえて裕二の奴は……
「来週の合コンお前も強制参加な。人数揃わなくてどうしようかと思ってたけど、良かった☆」
「はぁ!?面倒くせぇよ。誰が行くかっ」
「現役のキャビンアテンダントだぜ?それともナースの方が良かった?」
「どっちもイヤ!」
合コンなんて面倒くせぇ。そこまで女に困っちゃいない。