Fahrenheit -華氏-
■Encounter(出逢い)
ああ……惜しいことしたなぁ。
せめて番号でも聞いときゃ…
なんて考えながら、フロアのドアを開けると、俺の部下、佐々木 修二(ササキ シュウジ)が飛びつかんばかりの勢いで走ってきた。
「部長ぉ!おはようございま~す♪」
「お前はなんっでそんな朝から元気なんだよ」
昨日まで異動になったことをくよくよぐちぐち悩んでたってのに。
「新しい社員さん、会いましたぁ?」
「新しい社員?あぁお前にとっては初の後輩だからな。で?フレッシュな新卒はいたのか?」
俺は問い返した。
「新卒じゃないですよ。外資の、ほらっ中途採用の女性ですよっ」
「ぁあ、そっちか。いや、まだ会ってねぇけど」
「僕さっきちらっと見ちゃいました。すっごい美人ですよ!」
「そりゃ良かったな」
と俺は他人事。
バカめ。すっごい美人ってのはさっき会った女みたいなことを言うんだよ。
俺は心の中でふっと笑った。
まぁ佐々木は彼女いない歴=年齢だからな、女に免疫ねんだろうけど。
ピリリリ……
スーツのポケットの中で携帯が鳴った。
「やば!綾子から電話があったんだ」
途中で切れちまったからな、怒ってるだろうな。
そろりと携帯を広げると
着信:M
となっていた。