Fahrenheit -華氏-

どこで何をしようが勝手―――……


そりゃそうだけど……


柏木さんの言葉はまるでナイフのように尖っていて俺の心を突き刺す。


チクリ


とまた覚えのある痛みを感じた。


柏木さんにとって、俺の行動なんて興味ないってことは知ってたけど……


こう、まざまざと思い知らされると、さすがにへこむって言うか…


「それより部長。この間のアメリカのウェストウィザードの件ですが、問い合わせがきてます。


これは他社との合意の上、うちが落とすことになりましたから引き合い(取引条件の話し合い)出しておきました。


ご確認だけお願いいたします」


柏木さんはそう言って俺に書類の束を手渡してきた。


ウェストウィザードの件は佐々木に任せてある。細かい調整を柏木さんがやってくれたようだ。


中には見積書と納品書、細かい納期の報せがびっちりと書かれている。


「はい……。どーも。相変わらず仕事速いね」


気のない返事を返してぱらぱらと書類を捲る。


「いえ。仕事ですから」


柏木さんは変わらず完璧で……


金曜日ここで別れて以来何も…何一つ変わらない。


何か……俺だけあたふたしてバカみたいだ。


みっともないな。っていうかかっこ悪い。


柏木さんの前だとどうしても俺はかっこ悪くなる。


かっこ良く見せたいのに―――




俺を上司として(と言うかそれすらも危ういけど)じゃなく、一人の男として見てくれる日はいつか来るのだろうか……



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