Fahrenheit -華氏-
俺の怒鳴り声に佐々木が驚いて肩をびくりと震わせる。
柏木さんは無表情のまま俺を見上げていた。
「どうされたんですか?」
最初に口を開いたのは柏木さんだった。
冷静なその声音が、今日は妙に勘に障る。
「柏木さんウェストウィザードの引き合いの件。君に一任してあったよね?」
「はい。それが何か…?」
「うちが落とすと決まっていて、日本の業者に引き合いをかけてた?」
「はい。もう処理済みですが」
「今、三上通商から電話があって、ライバル会社の岩井運送のデータがあちらに送られているようだ」
俺の話しを聞いて佐々木が真っ青に顔色を曇らせた。
「佐々木…?」
「も……もしかして、僕間違えて双方の見積もりを作成しちゃったんじゃ…」
「本当か!?」
俺は立ち上がって佐々木を見下ろした。
見ように寄っちゃ睨んでいるようにも見えたのかもしれない。
佐々木は身を縮めると、萎縮したように目をしばしばさせた。
「発注メーカーも、品名も、種類も、個数も全部三上通商は覚えがないと言ってきている」
俺は自分でも驚くほど低く唸るような声を出した。
「それが岩井運送とどう関係あるのですか?」
「岩井運送宛だったんだとよ」
俺は柏木さんを冷たく睨むと、長々とため息を吐いた。