Fahrenheit -華氏-
「……はい」
佐々木が弱々しく顔を上げる。今にも泣き出しそうな顔をしている。
無理もない。俺がこんな風に声を荒げて怒鳴ることなんて、滅多にないからな。
「また外資?」と他の部署で声が聞こえ、様子を窺うようにパーテンションの間から他部署の社員たちが顔を覗かせている。
「チームだからこそ、高めあっていくのが常じゃないか!?
お前はそのチームと言う名前に甘んじている。
うちは馴れ合いなんて必要としていない!!!いいか!?このミスがどれだけの大穴を開けたかどうか、お前ら二人良く考えろ!!」
一気に言い切ると、俺はスーツの上着を引っつかんだ。乱暴に肩に掛けると、ブースを出ようと身を翻す。
「部長、どちらへ?」
柏木さんの声が俺を追いかける。その声に若干の緊張が混じっていたことがせめてもの救いだった。
ちょっとは俺の言った言葉に意味を感じてくれるのなら、今はそれでいい。
俺は無表情に柏木さんを見据えると、
「俺は双方の会社に謝罪だ。ご機嫌を損ねたら、次に繋がらんかもしれないからな」
そう言って一歩踏み出し、もう一度振り返って顔を真っ青にさせ俯いている佐々木に向かって口を開いた。
「佐々木。お前二社の引き合い、全部最初からやり直せ。今日がその締め日だったからな。やり終えるまで帰るな」
「……はいぃ」
佐々木は肩を震わせ、ぎこちなく頭を下げた。
柏木さんも無言でもう一度頭を下げる。
俺は二人に背を向け、歩きだした。