Fahrenheit -華氏-
「どうだったって?ふつー」
「ふつー?何だそりゃ。良かったとか、相性が合わないとか…あんだろ?」
「相性??キスに相性なんてあるのか?まぁ悪くはないと思うけど…」
俺は思わず聞いた。
裕二の眉がピクリと動く。
「ちょっと待て。お前ヤッたって、セックスじゃなくて?」
「え?ううん。キスだけ」
俺があっけあらかんに答えると、裕二は俺の前に差し出した諭吉様をさっと自分の財布に戻した。
「おい!何するんだよ」
「バカか、お前は」
裕二が冷え切った目で俺を軽く睨んだ。
「はぁ!?バカだとぅ?」
「キスなんてカウントに入るか、ボケっ!第一向こうじゃそんなの挨拶だろ?」
俺はぽかんと口を開いた。
あ・い・さ・つ……?
そー言えば柏木さんは長い間アメリカ生活だっけ?
忘れてた……
って言うか何でそんな重要なこと忘れるかな、俺…
「柏木さんは親愛なる上司に挨拶をかましただけだ。そんなん賭けの対象じゃねぇよ。
じゃ、また賭けは続行ってことで♪」
裕二はにこやかに言って、財布を尻ポケットにしまった。
親愛なる上司…
そう言えば前後の会話がそんなような内容だったような…