Fahrenheit -華氏-
サーーーー……
俺は青くなった。
「んな!じゃぁ今までと全然変わってないってことじゃん!」
俺は勢い込んで思わず裕二を揺さぶった。
「そうだね~」
人ごとだと思いやがって、裕二はのんびりと答えた。
「くそっ!!こうと分かっていりゃ、あの場で強引に押し倒しときゃ良かったぜ」
これでも一応考えているんです、俺は。
キスをしたから、その先もすぐOKってわけじゃない。第一、会社の資料室でことに及ぶわけにはいかないだろ。
それこそ柏木さんに「不謹慎です」なんて言われて張り倒されるのがオチだ。
俺……何でこんな中途半端な常識持ち合わせてるの?
今更ながら自分の性格が憎い。
そんなことを考えて落ち込んでいると、
キィ
喫煙ルームの硝子の扉が開いた。
俺と裕二は揃って入り口の方に視線をやった。
「こんなところで油を売ってたんですか。探しましたよ、部長」
柏木さんが資料を抱えて喫煙ルームに入ってきた。