Fahrenheit -華氏-

ジェニーの滞在は一週間だということだったが、早くも二日目で俺と彼女は随分仲が良くなった。


「Hey!Good morning! Katey.(おはよう!ケイティ)


ジェニーは俺のことを親しみを込めてケイティと呼ぶ。


ちなみに佐々木のことは“Shuw”シューと呼んでいる。修二だからだそうだ。


でも柏木さんのことは“Ruka”と、本名のままだ。


まぁ女同士だし、引くところはちゃんと線を引いているのだろう。


柏木さんはジェニーといると楽しそうだ。


相変わらずぎこちないけど、笑顔が多い気がする。


海外生活が長かったから、懐かしいのだろう。





俺の部署にやって来た金髪美女をひと目見ようと、連日男どもが押しかけてきた。


いつかの光景を思い出す。


そうだ…あれは柏木さんが入社したばかりのことだ。


「お前んとこばっかり美人を集めてずるいぞ」


と裕二がぼやいてたっけ。


ふん。何とでも言え。


外資物流なんて面倒な部署を押し付けられた見返りだ。


ちょっとはいい思いしてもいいだろ。


それにしても……


つくづくいい眺めだと思う。


ジェニーは柏木さんにべったりで、おまけにアメリカ特有の過剰なスキンシップで彼女に抱きついたり、頬にキスしたりしている。


これが男同士なら「おえ~」ってきちまうけど、見目麗しい美女たちの絡みだと美しい美術品を眺めている気分になる。


それと同時にちょっとした嫉妬が生まれた。


俺だって柏木さんに抱きつきたい。


俺だってキスしたい。






そう、キス―――したい……





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