Fahrenheit -華氏-
柏木さんの唇には淡いピンク色の口紅に、うるうるしたグロスが乗っている。
癖なのだろうか、時々……本当に時々だけど舌で上唇の端をちょっと舐めることがある。
それがまた挑発されているような色っぽさを感じる。
当の本人はこれっぽちも俺がこんなことを考えているなんて知らないだろうけど…
あぁ……あの唇に自分の唇を重ねてキスしたいな。
歯列をなぞって舌を入れたい。
柏木さんは応えてくれるだろうか。
そんなことをもんもんと考える。
ん……?ちょっと待て!
俺、欲求不満なのか??
そう言えばここ最近女を抱いていない。
あー、だからだ…。きっとそうだ。そうに違いない。
一人納得すると俺は頷いた。
「……ちょう…部長」
そう呼びかけられて、俺はびっくりした。
「は…はい!!」
イケナイ想像をしていたから、俺は心底びっくりして慌てて飛び上がった。
「どうしたんですか?」
「え…いや、何でも…」
「まぁ挙動不審なのはいつものことですけど」
グサッ!
相変わらず酷いことをサラリと言うのね、柏木さん…
クスン
俺は痛く傷ついたよ。
「傷心のところ失礼しますが、この辺で美味しい天ぷらを食べられるところってあります?」
柏木さんはちょっと困ったように眉を寄せていた。