Fahrenheit -華氏-

「天ぷら…?それなら俺がよく行く定食屋が安くて旨いけど…店はちょっと綺麗じゃないから、女の子にはお勧めできないかも。何で?」


「ジェニーが天ぷらを食べたいって。でも私お店を良く知らないので…」


俺は腕時計を見た。


昼の12時を過ぎている。


「ちょうど昼休みだし。四人で食いに行く?」


柏木さんは「ありがたいです」と言わんばかりにちょっと目を輝かせた。





俺の良く行く定食屋は古いビルの一階にある。


店自体も狭いし、おまけに昼時間になるとサラリーマンでごったがえになる。


とてもじゃないが、若い女の子二人で来れるような店じゃない。


でも安価でボリュームがあり、おまけに旨いと近隣のオフィスに通うサラリーマンたちには人気だ。


「What's this Ruka?(ルカ、これは何?)」


「This is Japanese basil.They're delicious.(大葉です。美味しいですよ)」


「It tastes great!(おいしい!)」


さっきからジェニーは器用に箸を動かしながら食事を進めている。


「箸の使いかた、上手ですね」


佐々木が言うと、


「向こうにも日本食のレストランが多数あるんです。マイ箸を持つアメリカ人も多いんですよ」とえび天に口をつけながら柏木さんが教えてくれた。


「へぇ」


と素直に感心しているが、それにしてもさっきから客たちの視線が……


俺たちに集中して痛い。











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