Fahrenheit -華氏-

食事を終えると店を出た。


もちろん俺が払いましたよ。経費なんてせこいことは言いません。


「ごちそうさまでした」


俺に奢られることに前は渋面だったのに、今日は大人しく礼をしてきた。


何でかな、柏木さんの前にある壁をちょっとだけ解いてくれたみたいで、俺は嬉しかった。


四人で歩き出すと、柏木さんの携帯に電話が鳴った。


「はい、柏木です―――お疲れ様です。―――え?ええ、分かりました。すぐ伺います」


早口に応対して電話を切り、慌しく俺を振り返った。


「すみません、部長。この間のフェデラルエクスプレスの件でトラブルがあったみたいなので私は先に行きます」


フェデラルエクスプレスの件は柏木さんに一任してある。そのアシストに佐々木をあてがっていたわけだが。


俺の返事を聞かずとも、柏木さんの体はほとんど走り出しそうに前を向いていた。


「うん、分かった。お願いシマス」


「あ、僕もお手伝いします」


当然のように佐々木も後を追う。


「ジェニーを宜しくお願いします」と言って柏木さんは慌しく走り去って行った。






二人の後ろ姿を見送りながら、


「She is powerful.(パワフルよねぇ)」とジェニーが苦笑混じりに呟いた。


「Sure is.(ホントに)」


羨ましいほど仕事に掛けては情熱を持ってる。


エネルギーを費やすことを惜しまないし、とことんまでやり抜く。


女にしとくのがもったいない反面、やっぱり柏木さんは女で良かったって思うんだ。










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