Fahrenheit -華氏-
エレベーターはゆっくりと上昇していく。
俺のもやもやを一緒に抱え、また柏木さんの過去を振り切るように。
「Hey,Do you like her?(ねぇ、彼女のことが好きなの?)」
3階に差し掛かったところでジェニーが俺の腕をおもむろに引いた。
探るような、ちょっと挑発するような視線だ。
口元にうっすらと笑みを浮かべている。
からかっている、とは思えなかった。
「I respect her as a person.(人間として尊敬してるよ)」
「Safe answer.(無難な答えね)」
ジェニーはふふん、と鼻で笑った。だが面白くはなさそうだ。
何だろう…
今日はいちいちつっかかるな。
俺を試してるのか?それとも―――誘ってる?
どちらだろう……
「Hey,Give me a kiss.(ねぇ、キスして?)」
ジェニーは俺の俺の首に腕を回すとちょっと背伸びした。
Kissの単語を強調して言ったから聞き間違いなんかじゃない。
「Huh?(は?)」
いや、誘うにしてはあまりにストレートだったし、どこをどう見て俺が気に入ったのかさっぱりだったから。
「If you kissed me, her past is taught you.(キスしてくれたら、彼女のことあなたに教えてあげる)」