Fahrenheit -華氏-

エレベーターはゆっくりと上昇していく。


俺のもやもやを一緒に抱え、また柏木さんの過去を振り切るように。


「Hey,Do you like her?(ねぇ、彼女のことが好きなの?)」


3階に差し掛かったところでジェニーが俺の腕をおもむろに引いた。


探るような、ちょっと挑発するような視線だ。


口元にうっすらと笑みを浮かべている。


からかっている、とは思えなかった。


「I respect her as a person.(人間として尊敬してるよ)」


「Safe answer.(無難な答えね)」


ジェニーはふふん、と鼻で笑った。だが面白くはなさそうだ。


何だろう…


今日はいちいちつっかかるな。


俺を試してるのか?それとも―――誘ってる?


どちらだろう……





「Hey,Give me a kiss.(ねぇ、キスして?)」





ジェニーは俺の俺の首に腕を回すとちょっと背伸びした。


Kissの単語を強調して言ったから聞き間違いなんかじゃない。


「Huh?(は?)」


いや、誘うにしてはあまりにストレートだったし、どこをどう見て俺が気に入ったのかさっぱりだったから。


「If you kissed me, her past is taught you.(キスしてくれたら、彼女のことあなたに教えてあげる)」







< 176 / 697 >

この作品をシェア

pagetop