Fahrenheit -華氏-
■Condo(マンション)
柏木さんは定時の6時を過ぎると早々と帰り支度を始めた。
「あれ?柏木さんもうお帰りですか?」
と佐々木が不思議そうに首を傾げてる。
いつもならここからもう一仕事っていう時間帯だ。
「ええ。今日は約束があるので」
俺の方をちらりとも見ない。見事な徹底っぷりだ。
まぁ、佐々木に変に勘ぐられてもイケナイから。
「佐々木。終わったらお前も帰れ」
「え~、何でですか?」
「今日は早帰りデーだ。俺も用があるんでね」
佐々木は柏木さんと俺とを見比べた。
「まさか……お二人、これからデートですか?」
顔を青くして佐々木が眉を寄せた。
ギクリ!佐々木、意外に鋭い奴。
「バッ…ちげぇよ!!」
俺は慌てたが、柏木さんは冷静に、
「違います。只でさえ鬱陶しいのに、会社の外まで部長の相手をする気にはなりません」
表情一つ変えずに淡々と言う柏木さん。
グサっーーー!!
言い訳だっとしても幾らなんでも酷すぎない??
って言うかこの妙に飄々とした対応は、まさかの本心!?
「そうですよね~。僕の勘ぐり過ぎでした」
佐々木がまぬけな顔で笑っているのを、俺は恨みがましく睨んでやった。