Fahrenheit -華氏-
映画のチョイスは柏木さんに任せた。
てか俺は映画どころじゃない。
手を出してしまわないかどうかが心配だ。
押し倒しでもしてみろ?「不潔です!」って怒鳴られそうだ。
それとも「部長…私、部長なら……」って口?
いやいや…それはないだろう…
だって面と向かって「ないですから」って言われたんだぜ?
分からん。
柏木さんの心が全く読めん―――
こんなに分からない女は初めてだ。
ペース狂いまくり……
六本木に向かう最中俺は車の中でやたらと喋った。
くだらない世間話のことから、仕事のことまで幅広く。
やけに饒舌になるのは柄にもなく緊張しているのか、それとももっと他の理由があったのか。
俺には分からなかったけど、俺の一言一言に頷いている柏木さんの心境は―――
もっと分からなかった。