Fahrenheit -華氏-
「あ、じゃぁ……」
コーヒーを?というべきか…それともアルコール?
柏木さんがどんなつもりで俺をあげたのか分からなかったので言いよどんでいると、彼女はさっさとリビングと繋がっているキッチンへ足を向けた。
広い対面式のシステムキッチンにはカウンターがついてあり、その前にテーブルがあった。
テーブルの上にはアンティークのようなキャンドルの燭台が乗っている。
センスがいいんだな。
ちっとも嫌味じゃない。
「赤しかない……赤でいいですか?」
カウンターの向こうから柏木さんの声が聞こえて、俺は一瞬何のことを言われてるのか分からなかった。
「え?」
柏木さんはカウンターにワインのボトルをトンと置いた。
「あ…えーっと……俺、車だから…」
苦笑いを漏らすと、柏木さんはカウンターの向こうから俺をじっと見つめてきた。
熱い視線とも、さぐるような視線とも違う。
ただ無表情にじっと……
「今更何言ってるんですか。そのつもりで来たくせに」
柏木さんは無表情のまま淡々と答えた。