Fahrenheit -華氏-
■Bodily temperature(体温)
え!?
や。もちろんそのつもりで…って内心は言っていたけど、俺は苦笑いを漏らすことしかできなかった。
柏木さんが無言で後ろの食器棚に向かった。
どうやらグラスを取り出しているようだ。
その隙に俺はばっと振り返って口を押さえた。
いかん!!何緊張してんの、俺!
落ち着け!初めてじゃあるまいしっ。
ってか女に関しては百戦錬磨のこの俺様が、何で緊張なんてしてるんだ!
らしくないぞ!!
「すっごい百面相……何を考えていたんですか?」
すぐ傍に柏木さんがいて俺は飛び上がりそうになった。
カタンと小気味良い音を立てて、ワイングラスやチーズが乗った皿をトレイから取り出しローテーブルに並べている。
「いや…すごくいい部屋だなぁって思って…」
「ありがとうございます」
相変わらず隙のない態度に、「あれ?その気じゃない?」と思ってしまう程だ。
「映画、三本借りてきたんですよ。部長はどれがお好きですか?」
マイペースにソファに腰掛け、レンタルショップの袋からDVDを三本取り出す。
俺は柏木さんの隣に距離を開けずに座った。
ソファは広いのにぴったりくっついて座った俺に、柏木さんは嫌そうな顔をせず、また体をちょっとずらすこともなかった。
お?これは行けるかも。
なんて思いながら、DVDに目をやる。
柏木チョイスの映画は、アクションものの最新映画と、ホラーもの、それから古い映画だった。