Fahrenheit -華氏-
映画がクライマックスに差し掛かるとき、俺のグラスはすでに空だった。
柏木さんなんて3杯目を飲んでいる。
ソファに両足を乗せ、体操座りをしているのが可愛かった。
淡いベージュピンクのスカートから覗いた白い脚が眩しいほどだった。
柏木さんが俺のグラスにワインを注いでくれたのを機に、そろりとネクタイの首元を緩めた。
部屋が暑かったわけじゃない。首元が苦しかったわけでもない。
もちろん下心があってのことだ。(こんなこと胸張って言えることじゃねぇっつの)
俺はソファの背もたれに腕をかけると、柏木さんの後ろからそろりと手を伸ばした。
ってか何やってんの、俺。いつもならガバッと一気に行くはずなのに……
柏木さんは映画に集中していて、俺の手に気づいていない。
柏木さんが動かないことを確認すると、そっと彼女の肩を抱いた。
柏木さんは肩に置かれた俺の手と、俺の顔をちょっと見比べた。
別段嫌がってはいなさそうだ……と思いたい。
俺はへらっと柏木さんに笑いかけると、彼女をちょっと自分の方へ引き寄せた。
柏木さんの華奢な肩が俺の胸に抱かれる格好になる。
「部長って……」
柏木さんの言葉に俺はびくりとなった。
「この変態!」とか罵られたらどうしよう、と内心ビクビクしてたけど、柏木さんの言葉は意外なものだった。
「いつも思うんですが、体温高いですよね?平熱何度ですか?」