Fahrenheit -華氏-

柏木さんは俺の顔を見ると、


「すみません。ちょっといいですか?」とお窺いを立てた。


「ど、どうぞ…」


そう答えるしかない。


でも柏木さんが、もし席を外して俺の視界から見えないところで電話をするようなら、相手が誰だか気になる。


別に俺は柏木さんの恋人じゃないのに、「男かな?」なんて妄想をしなきゃならない。


そうじゃなくても気になるんだけどね…





柏木さんは俺の心配したようにはせず、その場で通話ボタンを押した。


「もしもし?ママ……?」


ママ……


ほぅっと安堵のため息が洩れる。


ママ…かぁ。


そう思ってはっとなった。


もしかして“M”はママのM?


んなわけあるかぁ!!ありゃ男の声だった!


と一人心の中でノリ突っ込みをする俺。


正直今の俺って傍から見たら相当イタイ。


でも気になってしょうがないんだもん。


俺は隣で電話をする柏木さんをちらりと見た。


「―――うん。元気だよ。―――…うん、もうだいぶ慣れた……大丈夫、心配しないで」


そう言えば柏木さんの家族構成ってどうなってるんだろ。


俺、柏木さんのことよく知らないや。



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