Fahrenheit -華氏-
「……うん。それじゃぁね。おやすみ」
ピ、とボタンを押して柏木さんは通話を終えた。
「すみませんでした」と丁寧に頭を下げる。
「いや、いいよ。それより、柏木さんて兄弟いるの?何かしっかりしてるし下に弟とか妹といかいそうだよね」
「いえ、一人です」
予想に反した答えが返って来た。
「へぇ一人っ子……意外……」
と言いかけて「ん?」と俺は首を傾げた。
「あれ?だって携帯の待ちうけの写真、あれ妹さんか姪ごさんじゃないの?」
一人っ子じゃ辻褄が合わない。
柏木さんは俺の問いにちょっとだけ顔を伏せると、携帯を手の中で包んでちょっと思案するように口を噤んだ。
あれ?俺今マズイこと聞いた?
「いや。言いたくないことだったら言わなくても良いけどね」
ホントは知りたいけど。
でも、もしかしたら複雑な家の事情とかあるかもしれない。
知りたい気持ちを押し隠し、それを流すように俺はワインをぐいと飲んだ。
「……部長」
柏木さんが携帯をテーブルに置くと、俺の手にそっと自分の手を重ねてきた。
ひんやりとした指先が気持ちいい。
「え?」
俺は柏木さんを振り返ると、彼女は俺の頬に片方の手を伸ばし、顔を近づけてきた。