Fahrenheit -華氏-
「うぅわぁ。すごいね」
俺は思わず声をあげた。
広い寝室の真ん中にはキングサイズのベッドがありきれいにベッドメイクされている。
全体的に落ち着いたオレンジ系の色味で揃えてあって、ベッドの隣にリクライニングチェアーとその向かい合うようにして50型のテレビが置いてあった。
その向こう側の広い窓からは東京の夜景が広がっている。
ベッドの下のオレンジ色のダウンライトだけが灯してあるので、夜景の美しさが際立って見えた。
でも今の俺には夜景より柏木さんだ。
あんなの都内の高級ホテルに行けばいつでも見れる。
でも柏木さんとのセックスはこの日以外ないかもしれないのだ。
俺は柏木さんをベッドにそっと降ろすと、彼女の上に覆いかぶさった。
口付けを交わしながら、彼女のブラウスのボウタイをそっと解く。
長いキスの合間にボウタイを解いて、ついでに俺は自分のネクタイを引き抜いた。
唇と唇が少し離れると、柏木さんは息苦しそうに顔をちょっと背けた。
「あの……部長……何をしてるんですか?」
「何って、見て分からない?服、脱がしてるの」
「ちょっと待ってください」
はぁ!?
ここまで来て“待て”だとぅ!!
じゃぁどういうつもりで誘ってきたんだよ。
と怒り出したい反面、やっぱ気が変わったのかなぁと気弱になる。
だけど柏木さんの言葉は意外なもので……
「自分でやります」
「は?」
「だからっ」と柏木さんにしてはちょっと強い口調で俺を睨みあげると、
「恥ずかしいから自分で脱ぎます」
と言ってぷいと俺に背を向けた。