Fahrenheit -華氏-
■Name(名前)
「……部長、先に言っておきます」
何の前触れもなく柏木さんが唐突に口を開いた。
「……はい」
何だろう…ドキドキしながら俺は柏木さんの言葉に耳を傾けた。
「あたし、ここ三年ほどご無沙汰だったんです。だから部長を喜ばせるテクニックとか持ち合わせていませんので、期待などなさらないでください」
え?三年……?ってことは三年間彼氏がいないってこと…?
なんだ…そんなこと……
「てか、何でこんなときまで敬語?タメ口でいいよ、疲れちゃうでしょ?」
俺は軽く笑って柏木さんを抱き寄せた。
「タメ口?」
「あぁ…えっと敬語じゃなくて、普通でいいよってこと。さっきママと話してたみたいにさ」
「そう……ですね」
「だから、“ですね”はいらないって」
「すみません。癖で……」
俺は軽く笑った。柏木さんにタメ口を強要するのはどうやら無理なようだ。
「じゃぁさ、
柏木さんのこと瑠華って呼んでいい―――――?」