Fahrenheit -華氏-

柏木さんはそれについては何も言わなかったけど、慰めるように俺の頭に手を回し、髪を撫ではじめた。


「部長って意外と真面目だったんですね」


柏木さんの冷静な声が頭上から降ってくる。


って言うか、もっと罵ってよ。


バカにしてよ。それだったら、俺だって笑い飛ばせるのに……


こんなときまでも冷静な柏木さんの口調がちょっと憎い。


でも……


「真面目だよ。だって妊娠させたりしたら困るだろ?」


「女の人が?それとも部長が?」


「どっちも……俺、まだ結婚する気なんてないし、責任とってって言われても正直困る」


柏木さんは俺の髪を撫でる手を止めると、俺の頭に顔を寄せた。


「正直なんですね」


何故かクスっと小さく笑う。


いや、笑うとこじゃないし、そこは……


「今更止められるんですか?」


「う゛。止められるも何も止めるしかないじゃん」


頑張りマス。と続けたけど、この欲望を宥めるのに、どうすればいいのか……


アルコールが抜けてないからこのまま車で帰るわけには行かないし…


かといってここで一晩を明かすのは、蛇の生殺しだ。



そんなことをもんもんと考えてると、




「部長、いいですよ。そのままでも」




と柏木さんの意外とも言える発言が俺の頭上から降ってきた。




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