Fahrenheit -華氏-
「柏木さん、初めて俺のこと“部長”でなく、名前呼んでくれたね」
俺は、布団にくるまり、うとうとと瞳を揺らしている柏木さんの髪を撫でた。
「そーでしたっけ?」
重そうな瞼をこじあけて柏木さんは俺を見た。
「うん。ってか覚えててくれて嬉しかった」
俺はその事実が嬉しかった。てっきり知らないか、忘れてるかどっちかだと思ってたけど。
「それぐらい覚えてますよ」
と柏木さんが枕に手をついて頬を乗せる。
「え?でも一回しか名乗ってないのに?」
「一回で充分です」
「え!!じゃぁ佐々木の名前も覚えてる??」
「修二でしょ?」
「じゃ、じゃぁ麻野は?」
「裕二」
「じゃ…じゃぁ桐島は?」
「宏明(ヒロアキ)」
へぇ……あいつ宏明って言うのか。いっつも“桐島”って呼んでたから、名前忘れてたけど。(←結構ヒドイ)
「って何で柏木さんが桐島の名前まで覚えてるんだよ」
ちょっとショック。自分だけかと思ってたのに。
「一番最初にお会いしたとき、名刺を頂きましたから。それで」
名刺……あいつ意外と手が早い!って俺じゃねんだし、あいつにそんな下心なんてないか。
あいつは仕事熱心な営業だからもう癖になってんだな。
「か、柏木さん記憶力いいんだね……」
「そうですか?別に普通だと思いますけど」
さっきの甘い声と雰囲気はどこへやら、せっかくのピロートークだってのに、柏木さんはどこまでも冷たい。クスン……