Fahrenheit -華氏-

「柏木さん、初めて俺のこと“部長”でなく、名前呼んでくれたね」


俺は、布団にくるまり、うとうとと瞳を揺らしている柏木さんの髪を撫でた。


「そーでしたっけ?」


重そうな瞼をこじあけて柏木さんは俺を見た。


「うん。ってか覚えててくれて嬉しかった」


俺はその事実が嬉しかった。てっきり知らないか、忘れてるかどっちかだと思ってたけど。


「それぐらい覚えてますよ」


と柏木さんが枕に手をついて頬を乗せる。


「え?でも一回しか名乗ってないのに?」


「一回で充分です」


「え!!じゃぁ佐々木の名前も覚えてる??」


「修二でしょ?」


「じゃ、じゃぁ麻野は?」


「裕二」


「じゃ…じゃぁ桐島は?」


「宏明(ヒロアキ)」


へぇ……あいつ宏明って言うのか。いっつも“桐島”って呼んでたから、名前忘れてたけど。(←結構ヒドイ)


「って何で柏木さんが桐島の名前まで覚えてるんだよ」


ちょっとショック。自分だけかと思ってたのに。


「一番最初にお会いしたとき、名刺を頂きましたから。それで」


名刺……あいつ意外と手が早い!って俺じゃねんだし、あいつにそんな下心なんてないか。


あいつは仕事熱心な営業だからもう癖になってんだな。


「か、柏木さん記憶力いいんだね……」


「そうですか?別に普通だと思いますけど」


さっきの甘い声と雰囲気はどこへやら、せっかくのピロートークだってのに、柏木さんはどこまでも冷たい。クスン……












< 217 / 697 >

この作品をシェア

pagetop