Fahrenheit -華氏-
神妙な沈黙が再び降りてきて、俺は場違いなほど明るい声で言った。
「待ちうけ可愛いね。歳が離れた妹さん?それとも姪ごさんか何か?」
柏木さんは無表情に俺を見ると、
「そんなとこです」
と内容は曖昧だが口調はきっぱりと返してきた。
う~~~ん……
謎だ。
何を考えてるのかさっぱり読めん。
こんな女初めてだ。
「よ!啓人~来てやったぞ~」
能天気な明るい声がして、俺と佐々木が同時に振り返った。
げ
出やがったな!
社内で俺と並ぶ女好きで、遊び人の麻野 裕二(アサノ ユウジ)。
こいつとは色々気があって、しょっちゅうつるんでいる。
同期入社だが、こいつは一浪してるから歳は俺の1歳年上。
1階下のシステム管理室配属。
俺とあまり変わらない長身に、スラリとしたスタイル。爽やかなルックスに、それほど目が悪くないはずなのにデザイン性が高いいかにもインテリという風情のメガネをかけている。
こいつめーーー!
さては俺の部署に入った社員の噂を聞きつけて来たわけだな。
ハイエナみないな野郎だぜ。