Fahrenheit -華氏-

「ねぇ、でもさ。柏木さんの言う条件だったら、別に俺じゃなくても良かったってこと?じゃぁ裕二だったら?同じように寝てた?」


俺は話題を変えるように、ふっと気になったことを聞いた。


裕二が先に誘ってたら、柏木さんは裕二をここに連れてきたってわけか?


それだけはぜってー嫌だ!!


それだけに、「別にそれでも良かったんです」なんて答えられた日にゃ、ショックで寝込みそうだ。



「麻野さん?」


柏木さんはきょとんとして、俺を仰いだ。


そしてちょっとまばたきをすると、「ああ」と言った感じで少しだけ目を細めた。


「彼はないです」


柏木さんはきっぱりと言い切った。


「そうなの…?何で?」


口ではそう言ったが心の中ではガッツポーズ。


へへんっ!ざまぁ裕二め!柏木さんは俺を選んだわけだ!!


柏木さんは俺の腕の中にまるで猫のように擦り寄ってくると、目だけを上げた。


大きな目が暗闇の中で光ったように見える。


ホントに猫みたい…


「だって麻野さんガツガツしてる感じだから。あたしそういう人苦手なんです」


柏木さんはちょっとため息を吐いた。ため息の付き方も可憐だ。


「へ?ガツガツ?」


意外だった。だって裕二は俺の知る限り柏木さんにちょっかい出してる気配がなかったから。


何か企んでるな~とは思ったけど。


「ほとんど毎日メールを送ってきて…あ、もちろん社内メールですけど。それに部長が席を外してるときしょっちゅう来てましたし…何ていうんですか?見え透いた下心ってのがちょっと……」




あ!あいつーーー!!俺のいないところで柏木さんにそんなことをっ!!


どうりで余裕ぶっこいてると思ったら!


そういうことだったんかい!!



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