Fahrenheit -華氏-
「曲がりなりにも三年間ご無沙汰だったので……あたしだって軽い気持ちではないですよ?と言っても部長を男性として好きとかじゃありませんけど」
隣でメラメラと怒りを燃やす俺を知ってか知らずか、柏木さんがぽつりともらした。
俺のことを言われてるとは最初気付かずに、俺は目をぱちぱちさせた。
柏木さんは俺の頬にそっと手で触れる。
相変わらずひんやりと冷たい手だった。
「部長の………体温が……あたしには心地いいんです」
「え?体温?」
そんなこと初めて言われた。どっちかってーと、暑苦しいかなと自分では思ってたけど。
俺は自分のこの体温が自分でも暑苦しいと思う。
「あったかくて―――安心する……」
柏木さんはちょっと目を伏せた。
口元に幸せそうな笑みをほんの少し湛えている。
キュ~ン……
柏木さんの言葉に俺の心臓がきゅっと音を立てて痛みを発した。
思わずぎゅっと柏木さんを抱き寄せる。
こんなんでよければいくらでも柏木さんを暖めるよ。
いくらでも柏木さんを包んであげるよ。
柏木さんは俺の腕の中で身じろぎをすると、苦しそうに顔だけを出した。