Fahrenheit -華氏-
柏木さんは俺の背中に手を回すと、顔を摺り寄せてきた。
「部長の体温が好き……部長の香りが―――好き…です」
香り…………
あぁファーレンハイトね。
偶然にも柏木さんの起業した社名と同じネーミングの香水。
柏木さんはどんなことを思ってその名を社名に当てたんだろう。
この香水が好きだったから?
それともこの香りに何か特別な思い入れがあったから?
色々なことを考えているうちに、柏木さんの手から力が抜けたのがわかった。
俺の背中に回された手は力なく俺の背中に置かれている。
心地よさそうな寝息が僅かに聞こえても、寝てるのかどうか確かめはしなかった。
確かめるほどでもなかった。
俺の腕の中で眠る柏木さんは、まるで子供のようにあどけなく、少女のように可憐だった。
安心しきった寝顔は可愛くて、俺は柏木さんの額にちょっとキスを落とすと、
俺もやがて眠りに誘われた。
体が疲れてたからとかじゃない。
どうしようもなく安心して、柏木さんの体温が気持ちよかったからだ。
こんなにも眠りに入るのが心地いいのは随分久しぶりだ……
今は……
何もかも忘れて、ただ眠りに体を委ねられる。