Fahrenheit -華氏-
「Forget it already.(なかったことにしたいの)」
彼の呼びかけに被せるように言った。
これ以上この人と話していたくない。
全ての事実を……全ての過去を消し去りたいの。
でも……
『That's not how it works.(それはできない)There is July.(ユーリがいる)She is your……(だって彼女は君の……)』
「Shut up!(うるさい!)I know!(分かってるわよ!)」
分かってる……
分かってる。
分かってる!!
唇を噛んで、あたしは必死に涙を堪えようとしたけど、涙は止め処なく溢れて頬を伝う。
堪え切れなくてあたしは嗚咽を漏らした。
悲しみは……終わらない。後から後から現実から逃げようとするあたしを追いかけるように迫ってくる。
彼はあたしが泣いているのをしばらく黙って聞いていた。
彼がどんな顔をしてるのか分からない。
何を思ってるのかも知らない。
知りたいとも思わない。
『Louie,Can we start over?(ルーイ。俺たちやり直さないか?)』
その言葉にあたしは顔を上げた。
不思議なことに、あたしの涙が一瞬引っ込んだ。
悲しみの合間に笑顔が浮かぶ。