Fahrenheit -華氏-
部長がどこまで話の内容を聞いていたのか分からなかった。
聞いていても、どこまで英語の会話を理解しているのか分からなかった。
でも部長は何も聞かない。
黙ってあたしの頬の涙の跡を優しく撫でる。
部長の……
この独特の距離感が、あたしには心地いい。
この人は決してあたしの心に無断で入ってこようとしない。
無関心とは違う。
それは彼の精一杯の配慮だ。
聞きたいことはあるだろうに。知りたいこともあるだろうに。
それでも彼はあたしの傷には触れてこない。
だから心地良くて楽。
そして部長の体温は……
やっぱり温かくて、あたしの冷え切った気持ちを温かく包んでくれる。
部長がいてくれて、良かった―――
あたしが選んだ人が部長で
―――良かった。
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