Fahrenheit -華氏-

「試しに開いてみて?」


裕二が軽く柏木さんの肩に触れた。


気安く触るなよ。


って、俺は彼氏気取りか!?っていうか、俺が先に目を付けたんだぞ!


なんてもやもや考えてると、


「開きませんが」


と柏木さんの冷静な声が答えた。


「あれ?おかしいな~」


裕二はちょっと考え込むように、体を屈めた。


てか近い!近い!!離れろ!裕二!!


「これ、アカウントが間違ってませんか?」そう言って柏木さんはカタカタキーボードを鳴らす。


「あ、ホントだ。ゴメンネ」


「いえ」


ちょっと面白くなさそうに、裕二が柏木さんのデスクからようやく離れた。


「おい、しっかりしろよ。仮にもシステムの主任だろ?」


俺は嫌味をお見舞いしてやったが、裕二は「ふふん」と顔で笑った。


「俺がこんなミスすると思うか?わざと間違えて、もう少し一緒にいたかったの。ていうか、あの子見た目に寄らず結構ヤるな」


小声で囁きながら、感心したように柏木さんを目で追う。


彼女はマイペースにメールやインターネットを開いていた。


こいつ……


あなどれねぇ奴め。









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