Fahrenheit -華氏-
「え……?目?あぁこれね…」
左右で色が違う目のことか。
柏木さんが指摘してこないから、てっきり気付いてないのかと思ったけど。
柏木さんはほんの少し目を伏せると、
「欧米では左右の目の色が違う人のことを“凶眼”と言って不幸をもたらす目のことを差すんです」
「きょ……!えぇ!?」
不幸……??
そんなこと知らなかった!!出逢った女たちは大抵きれいだと褒めてくれたわけだし……
「でもあたしにとってその目は幸運をもたらせてくれる目なんです」
「…………え?」
「タイ王国ではマカオニー…白い宝石と呼ばれ、瞳についてはダイヤモンドの瞳を称されているのですよ。
あたしにとって部長の目は…悪魔の目よりも、もっとずっと素敵な宝石の目です。
キラキラしてて、濁りがなくて、まっすぐで……
目は口ほどまでに物を言う…ってことわざがあるじゃないですか。
まさにその通りですよね。
あなたの目に世界はどう映っているのか―――覗いてみたいです」
柏木さんの言葉は……
今までどんな女たちのくれた言葉よりも温かく、どんな女たちの言葉よりも意味があり、どんな女たちのくれた言葉よりも……
愛を感じた。
生まれて初めてこの目の色に意味を感じた。
生まれて初めてこの目に産んでくれた母親に感謝した。
そして生まれて初めて―――
心の中がこんなにも温かい―――