Fahrenheit -華氏-

だけど俺はその気持ちをどう表現していいのか分からなかった。


女が好きな反応を見せるのには慣れてるはずだったけど。


でも柏木さんにそれが通じるとも思えない。


俺は照れ隠しにちょっと笑った。


探るように柏木さんを見たけれど、彼女の顔からはやっぱり何も読み取れない。


「あのさっ。柏木さんて休日は何してんの?趣味とかは?」


俺は話題を変えるためふと気になっていたことを聞いた。


柏木さんはちょっと考えるように首を捻り、


「……寝溜…です」


と面白くなさそうに呟いた。


「え?寝る?ずっと?」


「ええ…平日あんまり寝ないので…睡眠時間が短いっていうのかな。だから休みの日たくさん寝て調整するんです」


寝る……


意外な答えだ。


思えば俺は柏木さんのプライベートを全くといっていいほど知らなかった。


謎に包まれているというべきか。


でも…


柏木さんに他の男の影はなさそうだ。


それにちょっと安心を覚える。


「寝る以外に趣味はないの?」


俺はご機嫌になってにこにこして聞いた。


「……そうですね。映画見るとか?」


ああ…昨日言ってたな、そんなこと。


「俺も。俺も好きよ?映画」


俺は自分を指さした。



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