Fahrenheit -華氏-
「そうだと思いました。オードリーヘップバーンが好きなんですか?」
柏木さんがちょっとはにかんだように笑った。
か、可愛い…
じゃなくて、見惚れてる場合じゃない。
「ヘップバーンも好きだけど、ジュリー・アンドリュースが好きだな♪声がすっげー綺麗でさ」
って言ってはっとなった。
柏木さんは目を開いて、俺を凝視している。
し、しまった!!俺としたことが!柏木さんの前で他の女のことを…
でも柏木さんは嫌な顔をせずにちょっと笑った。
「あたしも。あたしも好きです。ジュリー・アンドリュース。サウンドオブミュージックもメリーポピンズも見ました。プリティプリンセスも」
おお!
良かった!!
柏木さんが食いついてきた。
どうやら柏木さんは古い映画が好きなようだ。それもミュージカルのように歌の入ったやつがお気に入りみたい。
俺のおふくろが好きで小さい頃よく見せられてたからな。
感謝だぜ。
「あたしの…両親が好きなんです。そういう映画。だからかな、影響されたのかも。昔は父のお友達ご夫妻を家に招待して2家族で映画上映会をしてました。
見終わったあとはお酒を飲んで映画について語り合うんです」
「お。いいね~!うちの親も似たようなことやってたよ。俺も一緒にくっついていって、でもそのときの俺はあんまり映画に興味がなかったんだけどねぇ、相手家族の娘が可愛くてそれで結構楽しかったな~」
言って、ん?と首を傾げる。
なんか……
俺と柏木さんの境遇って似てる?
相手家族の娘……
まさかね…