Fahrenheit -華氏-
「え、映画の他は何かないの?」
俺の中に芽生えた小さな疑問を、俺は敢えて深く突っ込むことはしなかった。
過去バナよりも今だ。
俺は今の柏木さんを知りたい。
「あとは……株…ですか?」
株……渋いぜ、柏木。
さすがだな。
なんて思ったけど、
「株と言えばさぁ、三津和医療機器の株持ってるんだけどあれどうかな?最近株価が値下がりし続けてるし手放そうと思うんだけど」
三津和医療機器は日本の中でも比較的大きな医療機器メーカーだ。
ちょっと前までは右肩あがりだったのに、最近では下落しつつある。
「三津和医療機器でしたらもう少し待った方がいいですよ。今はまだ売り時じゃないです。間違いなくこれから値上がりするので、部長があたしを信じるのであれば売るのは得策じゃないですね」
何でそんなことが言い切れるのだろう。
俺だって経済誌や新聞を読んでる。
業績が伸びる気配なんて見えてこないのに。
でも……
「うん♪そうするよ」
俺は柏木さんの言葉を信じる。
何でかな?彼女が言うと絶対大丈夫だって思えるんだ。
……って、何で俺風呂場でこんなこと話してるの?
せっかくいい女と…それも極上と言える女と風呂に浸かってるのに…
株の話!?
色気がねぇな。