Fahrenheit -華氏-
「や…やられたぁ。お前に先こされるとは…」と裕二はがくんとソファにうな垂れ、
「あんた無理やり迫ったんじゃないでしょうね!」と綾子は更に詰め寄ってきた。
「バカか!俺が無理やり女を犯すような男に見えるかってーの!」
俺の発言に綾子は顎に手をやり「う~ん」と唸りながら目を細めた。
ってか、「見えない」とか即答しろや、このクソアマ。
「じゃぁ同意の上だってこと?柏木さんお前のこと好きだったの?そうには見えなかったけど」
グサッ!
俺が一番気にしてることを平然と裕二は言う。
でも
「同意の上に決まってんだろ?俺は彼女を無理やり押し倒したりもしてないし、強要もしてない」
「はぁ~、何か堅そうに見えたのに…意外ねぇ」
綾子が物珍しそうに俺をじろじろ見る。
「ま、あんた見た目だけはいいし、ちょっとグラッときたのかしら」
「見た目だけはって何だよ。見た目だけはって」
俺は不服そうに唇を尖らせた。
「じゃぁ他に何が良かったんだよ。俺じゃなくお前を選んだ理由ってのは何だ?」
裕二が真剣な顔でぐいと俺に迫ってきた。
怖えぇよ、裕二。何で目がマジなんだよ…?
「あんたは好みじゃなかったんでしょ?」
と綾子が言い、ぐいと裕二の肩を後ろにひいた。
「だって柏木さん好みのタイプは居ないっていってたんだぜ?」
「とにかく今は啓人の話を聞くべきでしょうが」
キャンキャン言い合いながらも、二人は同時に俺を見てきた。
ど・う・し・て??
二人の目にそう聞かれているようで、
「あ~……何か―――」
俺は裕二を見上げるといいにくそうにちょっと笑った。
「温度がいいとか言ってたなぁ」