Fahrenheit -華氏-
「物流管理の仕事に携わったことは?」
俺は柏木さんを見たが、彼女は何も答えなかった。
目で「どうぞ説明してください」と先を促している。
「まずは顧客から直接、製品受注を受けて、最終的な納期の交渉をします。そこで決定した顧客との納期をもとに製造工場のオペレーターに製品生産の発注をして、納期を決めるんです。
ここでやるのは主に輸出入の税務手続きと、バンニング(代行)が中心になります」
俺はなるべく簡単に誰でも分かるように説明をした。
「そういうことでしたら、私も前にいた会社で同じようなことをしてました。取引は主に東南アジアでしたが」
東南アジア……
スケールがでかいぜ。
俺はまだ国内しか受け持ったことがない。ってか、この会社自体が、だけど。
「最初の内は俺が顧客との交渉、柏木さんが国外メーカーとのやり取り、佐々木は俺のアシスタントというフォーメーションでやっていきましょう。
慣れてきたら、また考えるってことで、異存はありませんか?」
俺は立ちあがり二人の顔を交互に見た。
「はい!わかりました」
と元気な返事の佐々木。
「がんばります」とあくまで控えめな柏木さん。
「一緒にがんばりましょうね!」佐々木はにこにこ顔で目の前の柏木さんを見ている。
魂胆透け透け。
柏木さんに近づきたい一心だ。
ま、それは俺も一緒だけど。
「ところで、前の会社ってどんなところなんですか?何で辞めちゃったんですか?」
ぅぉおお!佐々木っ!
お前は突っ込み辛いことを何とストレートに。
俺はコホンと一つ咳払いをして、
「柏木さんは親父……会長から直々に引き抜かれたの。まだ若いけど、管理職だから」
と佐々木を睨んだ。
佐々木はキョトンとして俺を見上げる。
「つまり、お前の上司ってわけだ」