Fahrenheit -華氏-
ここの女性社員は原則制服着用が義務付けられている。
しかし管理職の社員に関しては服装の規定はない。
何でもいいってわけじゃないが、管理職まで昇りつめるとそれなりに常識も意識も携えてるわけだから、誰から見ても恥ずかしくない格好をしている。
だから柏木さんも私服っていうわけだ。
「へぇ、若いのに管理職ってすごいんですね」
佐々木が呑気に感心している。
お前、プライドを持てよ。歳の近い女がお前よりずっと立場が上なんだぞ。
そんなことを思っていると、
「若くありません。もう24ですから」
と柏木さんが静かに答えた。
「24!?佐々木と一緒!?」
「24!?僕と同じ歳!?」
俺と佐々木の声が重なった。
若そうに見えるけど、管理職になるぐらいだからもしかして俺より上なのかも……
ってちょっと思ってたところだ。
「そんなに意外ですか?老けて見えます?」
「いや……老けては見えないけど、24でここの会社の管理職って異例だぞ?」
俺は顎に手を当て柏木さんをじっくりと見た。
そんなぶしつけな俺の視線もものともせず、柏木さんはあくまで冷静に口を開いた。
「部長だって似たような歳じゃないですか」
「いや……俺の場合、名前だけって言うか…」
言ってて虚しくなった。
トホホ…という具合で力なく椅子に腰掛ける。