Fahrenheit -華氏-
■Esignation(諦め)
柏木さんと、俺と小さな女の子―――
一晩中考えていて、結局眠りに入ったのは明け方5時。
浅い睡眠が続いて、俺は夢を見た。
緑の木々が生い茂る森の中。
一筋の道が目の前に開けていて、俺の前を歩く一人の女の後ろ姿。
真っ白のワンピースの裾が風でゆらゆらとはためいている。
長い茶色い髪をなびかせて、女はゆっくり振り返った。
「―――部長…」
髪を押さえながら、彼女は―――柏木 瑠華は…
俺が見たことのないようなこぼれる笑顔でこちらを見ていた。
でも何でかな……
ちっとも嬉しくないんだ……
だって君が笑いかけてるのは俺にでなくて、
俺の向こう側にいる“誰か”に―――って分かっているから……
バカだな……俺も……
決して幸せな未来がこない恋をするなんて―――