Fahrenheit -華氏-
「ちょっ!いきなり何なさるんですか!」
口では怒っていても、抵抗してくる気配はなかった。
あぁ…やっぱ柏木さんはいいなぁ。
華奢で、柔らかくて……
ドキドキして、腕に力が入らねぇや。
「部長……?何かあったのですか?」
「ん~ん。ちょっと充電」
柏木さんの頭のてっぺんに顎をこつんと乗せると、俺は目を閉じた。
花のようなシャンプーの香りが鼻に心地いい。
柏木さんの声が……
柏木さんの体温が…
心地いい。
「よし!充電完了!!」
俺は柏木さんから離れると、彼女をちょっと見下ろして微笑んだ。
柏木さんは不思議そうに首を捻っている。
俺は柏木さんの小さな左手を手に取った。
ドキドキして…し過ぎて指先が震えた。
みっともねぇの。
柏木さんの左手をちょっと持ち上げて、俺は左手の薬指の根元に口付けを落とした。
「ここ。俺の予約席だから」