Fahrenheit -華氏-
手から顔を上げると、柏木さんは目を開いてパチパチと小鳥のようにまばたきを繰り返していた。
「…………」
彼女の僅かに開いた口からは何も言葉が出てこない。
な……なんか言って?
あせあせとしていると、
「生憎ですが、満席です」
と、これまたどキッパリと言われた。
「ま……!」満席だとぅ!!?
「嘘です。何か良く分かりませんが、元気になったみたいですね。良かったです」
そう言ってちょっと背伸びをすると、俺の頭をぽんぽんと撫でる。
ドッキーーーーーン!!
俺の心臓がひっくり返ってしまうかと思うほどの勢いで大きな音を立てた。
ドキドキし過ぎて死にそう。
いつか俺は―――
柏木さんに殺されるかも。
でもそれはそれで
幸せなことかもね。