Fahrenheit -華氏-


「今更番号?メアド?もういいじゃん。ヤッたんだろ?次も同じように誘えば」


「俺はっ!柏木さんとメールがしたいの!!くだらない電話とかもしたいの!!」


俺は勢い込んだ。


ヤることだけならサルにだって出来る。


ちょっとした世間話や、くだらない冗談、面と向かって伝えられない言葉を……


メールや電話で話したいんだ。


それに、俺はほとんど会社での柏木さんしか知らない。


佐々木やその他大勢の社員たちとほとんど変わらない。


彼女のプライベートを知りたいんだ。


俺しか知りえないことを知りたいんだ……


「ストレートに言えば?番号教えて?って」


「それができりゃ苦労しねぇって。俺……柏木さんを見るとドキドキして上手く喋れなくなるんだ。ガラにもなく緊張してんのかな。なぁ…俺、どうしたらいい?」


困りきって裕二を見ると、こいつは奇妙に顔を歪めていた。


「とりあえず……精神科行ってみたら?」


裕二は冷たく言ってあさっての方を見る。


こいつ…!マジで殺したくなってきた。


俺は裕二の首を絞める振りをすると、裕二は慌てて笑った。


「まぁまぁ落ち着いて、啓人クン。あれこれ考えるよりストレートに聞いた方がぜってーいいって。


ってか、お前は中坊かよ!今時の中学生だってもっとスムーズに番号ぐらい聞きだすぞ」


裕二の言葉に俺の裕二の首を絞める手に力が入った。


「悪かったな、ガキで!」



だって……



俺の時間は7歳のあのときから




止まっているから。





< 289 / 697 >

この作品をシェア

pagetop