Fahrenheit -華氏-
とは言ったものの……
紫利さんのように「笑って別れましょう」なんてケースはごく稀で……
怒鳴られるわ、水ぶっかけられるわ、ビンタされるわ……
いやビンタならまだ覚悟が出来てる。
でもこれは―――
「「「キャー!!神流部長!!そのお顔どうされたんですか!??」」」
同じフロアに居る女子社員たちに指摘されて俺は苦笑い。
最後の女がなかなか手こずった。
ミカ……激しい女だったぜ。
と言うものの…俺の顔はミカのネイルサロン仕立ての長い爪がつけた引っかき傷があちこち。
「あ~…ちょっと猫?にやられて」
ははっと俺は乾いた笑み。
同じ猫なら柏木さんにやられたかった…
俺が外資物流事業部に顔を出すと、珍しく早く出勤していた佐々木が驚いたように目を開いた。
「「……これはまた…」」
いつもどおりの早い時間に出勤していた柏木さんも驚きを隠せない様子で、俺を怪訝な目で見ている。
何か言いたげの佐々木に、
「何も聞くな」と牽制しておいた。
「これはこれは。二枚目の顔が酷い有様で」
ねっとりと纏わりつくような声で、外資のブースにひょっこり顔を出したのは、
俺の元所属していた物流管理の陰険村木の野郎だった。