Fahrenheit -華氏-
「僕が!僕が貼ってあげますよっ!!」
隣からさっと佐々木の手が伸びてきて、俺の手から絆創膏を奪った。
「ぇえー!?」
俺は不服顔。
野郎に貼られても嬉しかないんだよ!
「どさくさにまぎれて柏木さんに触ろうって魂胆見え見えですよ」
俺の顔に絆創膏を貼りながら、佐々木がにっこりと不気味な笑みを漏らした。
こっちも「そうはさせるか!」という心の声がだだ漏れである。
「部長はたくさん猫を飼ってらっしゃって大変ですねぇ」
なんてわざとらしく嫌味を言ってくる辺り、こいつもこいつなりに必死なんだなと分かる。
普段はこんな棘のある奴じゃない。
だけど、負けてられるかってーの!
「みんな逃げてったよ。新しい猫ちゃんが欲しいっていったら」
「うぅわ!最低ですね」
何とでも言え。
俺はこれでけじめをつけたんだからな。
あとは柏木にゃんこを手なずけるだけだ。
ちらりと柏木さんを見る。
噂されてるのを知ってか知らずか、柏木さんは俺たちの視線に気付くと、ちょっと口の端を上げて
「にゃーん」
と小さく呟いた。
か!
可愛い!!
「「俺(僕)の猫ちゃん!!」」
佐々木と声が被って、俺たちは睨みあった。