Fahrenheit -華氏-
送信者:柏木 瑠華
宛先:神流 啓人
件名:Re:携帯ナンバーとアドレスにつきまして
嘘です。
でも私あんまりマメな方じゃないので、返事とか期待しないでくださいね。
え―――?
俺はちょっと体をずらすと、柏木さんの横顔をそっと窺った。
柏木さんはちょっと顔を向けると、ほんの少しだけ唇の口角をあげて微笑んでくれた。
うっしゃーーー!!
今度こそ俺はガッツポーズ。
柏木さんの携帯ナンバーゲットしたぜ。
ふっふふ。早速今夜メールしてみよ♪
まるで背中から羽根が生えたようにふわふわとして、心が軽い。
未来にほんのちょっと光が見えた。
なんて考えてたけど、現実は厳しい。
「部長、2番にお電話です。……TUBAKIウエディング、デザイン室の香坂(コウサカ)さんから…」
佐々木が受話器を持って俺を見る。
心なしか眉が寄せられていた。
「あー……」
俺は額に手をやってちょっと考えると、
「居ないって伝えて?」とちょっと苦く笑った。
「…もう!いい加減出てくださいよ。僕、断るの嫌ですよ」
ぶつぶつ文句を垂れながらも、佐々木は電話の応対をする。
そのやり取りを見て柏木さんが俺を不思議そうに見た。