Fahrenheit -華氏-

「どうして電話に出られないんですか?」


いっそ怪訝そうとも言える顔つきだった。


「……あ~、ちょっとわけありでねぇ」


と俺は苦しい言い訳。


電話を切った佐々木が柏木さんを見て、


「TUBAKIウエディングの件、去年部長が物流管理本部に居たときに受け持った案件なんですよ」


とちょっと声を潜めていった。


いくらパーテーションで区切られているからと言っても、すぐ隣にはその物流管理本部がある。


その物流管理本部を通さず、うちに電話を掛かってきたことを村木に知れるとまた厄介そうだからだ。


「そうなんですか。なら何も問題ないじゃないですか」


と何も知らない柏木さんはさらりと言う。


「や~…俺、結婚式場のあの雰囲気が苦手だし…、なんてぇの?ドレスの生地の話で相談されてもさっぱりで。とにかく大変だったんだよ」


と、まぁここまでは本当の話。


でも…


「実はその件こそが、去年部長が取り損ねた億の契約だったんですよ。最後の最後で村木次長の邪魔が入ってオジャンになっちゃいましたが……」


「ああ…それでトラウマに?」


二人の会話を聞いて、俺は眉をぴくぴくと動かした。


「君たち……噂は本人の居ないところでしたまえ」


二人は慌てて口を押さえていた。




別に……


トラウマってわけじゃない。


大きな契約に繋がるのなら、どんな案件でも取り組みたい。




だがしかし!




俺はほんとーに!女のドレスのことなんてわかんねぇんだよ!!






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