Fahrenheit -華氏-
■Ennui(退屈)
「啓人~」
聞きなれない女の声に揺り起こされた。
「なんだよ?」
俺は寝起きの不機嫌顔で女を睨み上げた。
「なんだよって、もう6時だよ?5時半に起こせって言ったのに、全然起きないんだもん」
女は頬を膨らませてぷりぷり怒る。
俺そんなこと言ったっけ?
大体にして俺は人前で眠りはしない。よっぽど疲れてたんだな。
俺はベッドから見える窓にちらりと視線を向けた。
分厚い遮光カーテンの隙間からほんの少し朝日が洩れてる。
「……6時…ヤベっ」
俺は高級な羽毛布団を跳ね除けた。
「ちょっと!」
女が慌てて布団を手繰り寄せ、胸にかき抱く。
女のむき出しの真っ白な肩が目に入り、昨日の情事をふと思い出す。
いい女だった。
イコール体とセックスの相性が、ってことだ。
だけど
あばよ。もうお前とはこれきりだ。
大体俺はお前の名前すら知らねぇ。
そんなことを思いながら、俺は脱ぎ散らかしたシャツとスーツを手繰り寄せた。