Fahrenheit -華氏-
そりゃ…
柏木さんに手伝ってもらうのが一番だよ?
年齢もまだ若いし。知識だって今時のセンスだってあると思う。
でも……彼女は彼女でつい一ヶ月前のTOYOエクスプレスの件で忙しそうだし……
いやいや、よぉく考えてみろよ?啓人。
これはチャンスじゃないか?柏木さんとより親密になる。
という二つの思いに挟まれて、俺の心は複雑だった。
内藤チーフが自分のブースに戻っていくのを見送って、俺は柏木さんのデスクに手をついた。
「というわけなんだけど……」
言い辛そうに俺は柏木さんをちょっと窺った。
「……イギリスにあるローズウッドって言う繊維工場、柏木さんは知ってる?」
柏木さんはキーボードに滑らせていた手をちょっと止めると、目だけを俺に向けた。
「……ローズウッドなら…ちょっとしたコネがありますけど」
おお!!コネ!
やっぱ柏木さんに聞いて正解だったぜ。
ローズウッドなんて会社俺は聞いたこともないからな。まったくのゼロからスタートになるところだったけど…
ちょっと近道ができる。
「それより東星紡の話ですが……」
柏木さんがちょっと視線を険しくさせて俺を見あげた。